たった4日間で7兆円超、マネーゲームに費やされたこの金額の意味と質

 過熱する一方のヘッジファンドによる日本株買いですが、衆院選の投開票が終わって以降、この4日間で東証1部につぎ込まれた金額は、総額で実に7兆円を超えます。物凄い金額です。たった4日の間に、これほどの金額がマネーゲームに注ぎ込まれたのです。そして、この7兆円という額は、実は福島の原発事故と浅からぬ関連があるのですが、それについては後程詳しく論じることにして、まずは12月20日木曜に行われた取引の要点から見ていきます。

 日経平均株価は前日水曜の取引において、ついに1万円の大台を回復したわけですが、しかしこれは前回述べたように、水曜は、本来なら財務省から発表された貿易統計の結果から、株価は買われるよりもむしろ売られる方が自然でした。11月の貿易赤字9534億円のうち、そのおよそ6割が対中国貿易のものである以上、本来なら、この貿易統計を受けて、中国との関係改善こそが日本経済をめぐる最大の課題であるという認識を広く持つべきだったのです。ところが、この日東証では、2011年3月16日、つまり福島第一原発が爆発して建屋が吹っ飛び株価が大暴落したその翌日以来となるとんでもない金額がつぎ込まれ、そうして日経平均株価は一気に1万円の大台を回復したのです。この1万円を回復した時間帯というのが、東証の取引が開く前の外国時間でのものであった以上、あらかじめこの日発表される予定だった貿易統計から目を逸らさせるべく、アメリカのヘッジファンドが意図的に大金をはたいて株価を釣り上げたものであろうということは、既に分析した通りです。

 という訳で、無理やり株価を上げたこの分は近いうち必ず下落するであろう、それは早ければ翌日の20日木曜にも下落するだろう、何故ならこの日は日銀が金融政策決定会合を行って金融政策を発表した日であるため、市場関係者の期待に沿わないものが発表された場合、それは売りの恰好の材料になるからだと前回僕は予想しました。そうやって株価下落を1日ずらすことで、「日銀が消極的な金融政策しか発表しなかった」→「日銀の白川総裁は景気回復に向けての足枷である」ということにすり替えて売るためです。

 で、結果はどうだったか? これが見事に的中してしまいました。木曜は、朝方こそ買いが先行して株価は上昇したものの、しかしその後、日銀の政策決定会合へ向けてプレッシャーをかけるかのように、株価は右肩下がりに下落しました。そして昼過ぎ、日銀の金融政策が発表されると、途端に猛烈な売りが出て株価はほぼ垂直に急落、更にその直後、今度は猛烈な買いが入ってほぼ垂直に上昇という、世にも稀なクレバスのようなチャートが登場しました。これについてももちろん詳細に分析しようと思いますが、ともかく、その後も株価は下落し、結局終値では前日から「−1・09%」の下落となりました。という訳で、本当は日中関係の悪化によって下落するところを、1日ずらすことで日銀の金融政策の問題にすり替えるということが、現実に実行されたと言えるでしょう。

 さて、この1時過ぎに出現したクレバスのようなチャートですが、これは、アメリカの力を背景に日銀に対して圧力をかける安倍自民党と、それに負けまいとする日銀白川総裁の激しいせめぎ合いを感じさせるものです。かなり重要なので、ちょっと立ち入って分析することにします。これは時系列で説明すると、まず1時過ぎに、日銀から国債など資産買い入れ総額10兆円積み増しという緩和政策が発表されました。しかし、この程度の緩和では到底マフィア連中は満足しないため、直後、猛烈に株は売られたのです。ところが、その数分後、またしても日銀から発表があり、安倍自民党が選挙前から掲げていた2%のインフレ目標について、来月の会合までの間に検討すると言ったのです。

 この数分の時間差をどう見るか? 何故白川総裁は、最初からこの2つのことをまとめて発表しなかったのか? ここに、ヘッジファンド自民党連合軍に負けまいとする白川総裁のプライドとしたたかな戦略が感じ取れます。ここ数年間、殆どあらゆるエコノミストが指摘してきたことですが、白川総裁というのは、先進国の中央銀行総裁のなかでは最も緩和政策に消極的であり、ましてや2%のインフレ目標などは、まったくやるつもりのない方です。だから白川総裁としては、本来なら、資産買い入れの10兆円積み増しだけにしたい筈です。しかし、それだけでは、株価は猛烈に下落することも白川総裁は十分理解しています。しかも、そうして下落したら、日銀に対する圧力は益々高まり、日銀法改正への世論誘導さえ起こりかねないのです。かといって、アメリカと自民党の軍門に屈して2%のインフレ目標を掲げてしまっては、中央銀行の独立性など地に墜ちます。

 そこで、まず最初に資産買い入れの10兆円積み増しだけを発表し、いったん株価を急落させた後で(言っておきますが、物凄い落ち方です)、すかさずその数分後に2%のインフレ目標を検討しますと言い、今度は株価を急上昇させることで、衆院選の圧勝を通じて高まるばかりの圧力を巧みにかわしたと言えるでしょう。しかも白川総裁は、2%のインフレ目標を「検討する」と言っただけで、実際にやるとは一言も明言していないのです。このへんは実に見事であり、しかもこの一連のことを通して生まれた世にも珍しいクレバスのようなチャートからは、日銀へ圧力をかけている真の存在は自民党ではなくアメリカなのだ、ということを社会に訴えるために、白川総裁がわざとつくらせたとも言えるもので、まさに日銀の独立性をめぐってぎりぎりの攻防戦が展開されていると見ることができるように思います。

 日銀法が改正されて、日銀の金融政策が安倍自民党の意のままになってしまったら、それで円の運命は終わりなのです。日本そのものがただでは済みません。しかし、アメリカは自民党を通して猛烈な圧力をかけてきています。なので、この戦いは今後目を離すことができません。

 ところで、日経平均株価が1万円を突破した水曜の取引ですが、これは金額だけでなく、個別銘柄においても、無視できない要素がありました。既に申し上げてきたように、これまでヘッジファンドは、何よりも電力株と金融株を最大の物色先として狙いを定めてきたわけですが、水曜は、それとは別に、いかにも自民党という業種の上昇が目立った1日でもあったのです。その業種は何かというと、ゼネコンです。水曜は、ゼネコンの株も大幅上昇が実に目立ちました。以下は、その主なところです。

     東急建設    +26・73%
     大林道路    +15・86%   
     前田建設    +14・32%

 ちなみに、この日の東急建設の上昇率は、東証1部上場全1700社のなかで、1位でした。しかし、そもそも、先月解散・総選挙が決まった翌日、株価の上昇が目立ったのも、実は何よりゼネコン株だったのです。非常に顕著だったので、僕はその日のゼネコン株の上昇率をメモしておきました。以下が、その数字です。

     大林組     +6・03%
     鹿島建設    +6・42%
     大成建設    +6・16%
     清水建設    +7・42%

 水曜のゼネコン株上昇と較べると上昇幅はあまり大きくないと感じるかもしれませんが、なにしろこれは解散・総選挙が決まったばかりのときですから当然です。しかし、それでもこの上昇幅はかなりのものです。

 そしてまた、電力株に対する投機的な売買も、日を追ってはっきりしてきました。週明け初日は株価上昇率で全業種中1位だった電力株は、その翌日には一転して下落率の1位になりました。そして木曜ですが、今度はまた電力株が上昇率で全業種中1位になりました。このように、買いと空売りを駆使して、極端な乱高下を繰り返して儲けながら徐々に再稼働へと仕向けていこうという意図は、もはやはっきりしたと言っていいでしょう。

 更に、相も変わらずメガバンクに対しての物色も盛んです。

 という訳で、自民党圧勝を受けて取引が目立つのは、電力株・銀行株・ゼネコン株の3点セットがその筆頭であり、あまりにも解りやす過ぎて困るほど旧来的な癒着の構造が見えてきます。しかも、買っているのはアメリカのヘッジファンドなわけです。それなのに、大手メディア・経済学者・金融アナリストたちは、「ついに日経平均株価が1万円を回復した!」、「景気回復への期待は高まるばかり!」などと言って喜んでいるわけです。お前らはバカだで済む問題ではありません。こうやって、福島のこと、悪化した日中関係のことは、共に忘れられようとしています。

 ところで、冒頭に述べました7兆円超という金額は、決して無視することのできないものです。既に申し上げたように、これは総選挙後、今週4日間の間に東証1部につぎ込まれたマネーの総額なのですが、実は、福島原発事故が起こる以前、つまり2010年以前の福島の県内GDPというのが、およそ7兆円なのです。つまり、単純計算ではあるものの、この7兆円があれば、福島の方々の生活を1年間まるまる保障できるのです。しかし、それがあろうことか、よりによって電力・銀行・ゼネコンなどの株につぎ込まれ、そうして福島のことを忘れる方へと世論誘導されているというのが、この総選挙後に起こっていることなのです。

 これは到底捨て置くことができないことです。こんなことが許されて言いわけがありません。しかし、メディアも経済学者もこのことはまったく言わないのです。これでは、いったい何のための経済学者、何のためのメディアでしょうか? そしてまた、いったい何のための総選挙だったのでしょうか? これでは、福島の方々になんとか支援の手を差し伸べるための選挙ではなく、むしろ民主党政権を潰すため、福島の危機をダシにすることで、かつての癒着の構造を蘇らせるための選挙であったかのようです。

 しかし、ヘッジファンドはもっと狡猾なのです。ここ数日の動きを観察していて、おぼろげではありますが、ようやくマフィアどもの真の狙いがうっすらと透けて見えてきました。それについては、後日お伝えしようと思います。

 どうにも恐ろしい戦略が既に準備されている模様です。