マネーゲーム本格化、電力株に対する投機筋の姿勢は特に鮮明に

 いよいよヘッジファンドによるマネーゲームが本格化の兆しです。ストップ高になった東電をはじめ、電力株の大幅上昇で騒然とさせた週明け初日の取引から一夜明けた12月18日火曜日、東京証券取引所は更なる驚きに包まれました。

 日本株をめぐる市場の空気を最も敏感に感じ取っているのは、東証に詰めている金融メディアの記者だと思いますが、CSの株式市場分析専門番組「ラップ・トゥディ」の合田倫子キャスターがその日、東証Arrowsから行うリポートの第一声は、「外国人投資家の日本株買いは収まる気配なし・・・」というもので、マネーゲームの過熱ぶりを伝えるには既に十分なものでした。

 かなり危機的状況です。電力株への狙いをはじめ、ヘッジファンドによる日本株荒らしはいよいよ本格化の兆しを見せています。

 市場が正常なものであるか、異常なものであるかは、日経平均やTOPIX(東証株価指数)ではあまり解りません。取引が健全に機能しているかどうかは、取引の過熱感を示す指数である騰落レシオや、1日にどれだけの金額がつぎ込まれたかという売買代金でこそ解ります。そして、火曜の相場が月曜以上に驚きのものであったのは、何よりもこれらの数字によります。

 火曜の騰落レシオは、152・01ポイントを記録しました。これは、今年1番の数値であり、それだけ取引が過熱していることを意味します。一方の売買代金ですが、こちらは、火曜の1日で1兆7923億円にのぼり、これも今年最高です(SQ算出日を除く)。このSQ算出日というのは無視して構いません。とにかく、今年1番の大金がつぎ込まれ、マネーゲームが過熱した日と捉えていただいて、なんら問題はありません。

 で、個別銘柄の動きですが、こちらも益々ヘッジファンドによる荒らしの兆候が鮮明になってきました。まず月曜にストップ高まで上昇した東電ですが、これは火曜も17・32%という大幅な伸びを見せました。この東電株の売買は、東証1部上場1700社のなかで、売買代金では2位、株価上昇率では3位というものでした。しかし、真の問題はこの後です。

 月曜は、東電以外の各電力会社も軒並み大幅高となりました。ところが、火曜はまったく違いました。端的に言いますと、東電以外の電力株は軒並み大幅下落です。東北電力にいたっては「−6・88%」も下落し、これは全1700銘柄中、下落率で第1位です。そして、以下に挙げるのは、それ以外の各電力会社の株価下落率です。

    関西電力  −4・46  
    四国電力  −4・43
    北陸電力  −4・41
    中国電力  −4・01
   
 驚くべきことに、月曜は全業種中1番上昇率の大きかった「電力・ガス」が火曜は下落率で第1位でした。というより、火曜は全業種中、ただ「電力・ガス」だけが下落したのです。月曜は上昇率で全業種中トップだったのに、何故一夜明けるとそれがまったく正反対となるのか? これはいったい何のか? 月曜はいくらなんでも上がり過ぎたので火曜は売り戻しがありました、という通常の値動きではありません。明らかに、これもヘッジファンドによる仕掛け的な売りです。

 これらの電力株の値動きも、チャートで見ると、月曜と同様に、どれもまったく同じなのです。ただ、月曜は上昇だったのが、火曜は一転して下落だったというだけの違いです。具体的に見ていきます。火曜は、取引開始直後の午前9時過ぎ、いずれの電力株も、ほぼ垂直方向に株価が下落しています。超短期の間にとてつもない資金が投入されないと、このようなチャートの動きは絶対に起こりえないものです。しかも、どの電力株も、まったく同じ時間に一様に垂直方向で下落しています。これは、すべての電力株を合わせれば、相当にとてつもない金額が一気に投入されたことの表れであり、こんなことが出来るのはアメリカのヘッジファンドぐらいのものです。

 では、何故彼らは月曜には一度上げた値を、今度は無理やり下げさせたのか? その狙いは明らかです。いくら自公で衆院の絶対多数を獲得したからといって、再稼働がそう簡単に行くわけがありません。そもそも、四国も北陸も九州も中国もとにかく全部再稼働など、どう考えても不可能です。

 現在原発を抱える各電力会社は、再稼働できれば財務状況は改善し、再稼働できなければ財務状況は悪化、債務超過の恐れさえあるという、すべては再稼働の是非次第。いわば生かさず殺さずに近い状態にあります。ギリシャ国債が典型ですが、生かさず殺さずのものほど、マフィアたるヘッジファンドにとって「美味しい」ものはないのです。

 よそからの支援が途絶えればそのまま破綻という東電は、同じくよそからの支援が途絶えると破綻となるギリシャ国債と、構図的には同じです。そして、まだ自力で何とかなるかもしれない関電をはじめとする他の電力会社は、同じく自力で何とかなるかもしれないスペイン国債、イタリア国債と同じ状況といえるのです。

 南欧諸国の国債が、ユーロ圏財務省会議などイベントがある度に、「支援が決まるかも?  先送りされるかも?」、あるいは「EUに支援要請するかも? 要請しないかも?」などの憶測が流れます。一方で日本の電力株ですが、ヘッジファンドにとっては、自民党になればそれだけ、「再稼働できるかも? できないかも?」で揺れることになり、債務危機に苦しむ南欧諸国の国債をめぐる動きと同じ状況をつくりやすくなります。

 今回の各電力会社の下落はその第一歩でしょう。繰り返しますが、このまま再稼働へ向けて一直線、電力株もひたすら上昇など、いくらなんでもあり得るわけがないのです。また、右肩上がりに株価が上昇することは、どこかで大きく下落に転じるリスクが付きまとうものでもあります。ならば、「再稼働できるかも? できないかも?」で揺れながら、株を買って値を上げて儲け、そして今度は空売りして値を下げて儲け、更に安くなったところでまた買って儲け・・・、というループを延々と繰り返しながら徐々に再稼働に向けて動くことが、最もリスクがなく、且つ儲けの機会も多いことになります。これは、あまりにろくでもない取引です。放射能に怯える人の気持ちも、脱原発原発依存かで民意が二分し町がズタズタに引き裂かれた原発立地地域の人の気持ちも、その他何もかもを踏みにじる許しがたい取引です。

 しかし、憂慮すべきは、それだけではありません。先程、東電株の売買代金が全1700銘柄中、第2位だったとお伝えしましたが、この売買代金をめぐって、他にも見逃せない動きがありました。売買代金の額で、東電に次ぐ3位に三菱UFJ、5位にみずほFG、6位に三井住友FGが、それぞれランクインしたのです。これらのメガバンクは、言わずとしれた原子力村の資金源であり、本来債務超過で破綻するところだった東電を緊急融資によってゾンビ化させた連中です。これら銀行株も、ヘッジファンドの有力な物色先として大変買われました。

 銀行株に関しては、もちろん日銀への金融緩和期待もあるかと思いますが、それを反映してか、業種別騰落率の上位には、証券や保険会社という、金融商品の売買に関連する企業の銘柄が上位に来ています。証券に関しては、上昇率で火曜は1位でした。

 という訳で、銀行・証券・保険をも巻き込んだマネーゲーム本格化への準備は着々と進みつつ、一方で、電力株は債務危機にある南欧諸国同様の投機的売買が加速しそうな気配が濃厚に漂う、そんな東証の相場展開でした。今後更にどのような展開があるのか? 水曜・木曜に行われる日銀の金融政策決定会合の結果次第では、また大きな変化があるかもしれません。何かあれば、その都度お伝えします。ともかく、アメリカのマフィアどもが、日本を徹底的に食いものにしようといよいよ牙を剥いてきたことは、間違いないようです。