日経平均株価1万円回復は目くらまし、しかし、それ以上に寒気がした12月19日水曜の取引の内容について

 東京証券取引所の取引、いよいよ恐ろしいことになっています。

 12月19日水曜、日経平均株価は久し振りに1万円の大台を回復しましたが、内容を吟味すると、それは実に異常を通り越して寒気がするものです。しかし、その点については後程詳しく論じるとして、まずは日経平均株価のことから見ていきます。

 日経平均株価は確かに、前日の終わり値から大幅に上昇し、一気に1万円を回復しました。ところが、またしても、この上昇は日本国内の取引時間におけるものではないのです。東証の国内取引が開始した午前9時の時点において、既に日経平均株価は1万円の大台に乗っていたのです。つまり、この株価上昇は外国時間のもので、これまで何度も見てきたように、株を買ったのはアメリカのヘッジファンドを主力とする外国人投資家です。しかし今回は、単にそれだけで済ますことは到底できません。

 というのも、水曜の午前中、財務省から11月の貿易統計が発表されまして、それが実に9534億円の赤字を計上したのです。これで今年の貿易赤字は6兆円を超えることは確実となり、これまで過去最大の赤字だった1980年の2兆6128億円をはるかに上回る、最悪の数字です。

 これほどの貿易赤字が発表されたなら、その後株価は下落すると考えるのが普通です。にも拘わらず、日経平均、TOPIX(東証株価指数)ともに下落することはなく、日経平均は1万円台を維持したままほぼ横ばいで推移し、そして取引終了の3時直前にかなり大口の買いが入って更に株価は急伸し、そのまま高値で取引を終了したのです。

 普通に考えれば、こんなことはまずありません。しかも、貿易赤字の最大の要因は当然ながら中国向け輸出の大幅な低迷です。無論、これは尖閣を受けてのものです。仮に、今後中国向け輸出が改善されるという見通しが立っているなら、悪材料出尽くしということで株価の上昇は説明がつくかもしれません。しかし、中国向け輸出は、いまだ改善する見通しが立っていないのです。

 日銀は2か月に1度、各企業への調査をもとに、大企業景況感指数というのを発表しています。尖閣問題が起こったのは9月でしたが、先頃新たに11月分の調査をまとめた数字が発表されました。以下に挙げるのは、日本の輸出の主力である、自動車、鉄鋼、そして非鉄金属の数字の変化です。

               前回(9月) 今回(11月) 先行き見通し
        自動車     +19     −9     −16
        鉄鋼       −28     −30    −30
        非鉄金属      0     −13    −19

 ご覧の通りです。元々マイナス幅が大きく、はじめから低迷していた鉄鋼はその低空飛行のままという見通しで、自動車や非鉄金属にいたっては、むしろ今後更に悪くなると予想されているわけです。企業向けの調査から事前にこのようなことが解っていて、そこで昨日発表された貿易赤字額の衝撃を考えれば、くわえて自民党安倍政権の誕生で今後の日中関係への懸念はより一層高まっているのに、なのに何故株価はあのように猛烈に上がったのでしょうか? 

 エコノミストのなかには、円安への期待が株価を押し上げていると言う輩は多いです。しかし、ちょっと待て、なのです。円安というと、いかにも安倍総裁の金融緩和発言が円安へと誘導し、そうしてこの円安はあたかも11月から始まったかのように報道されていますが、しかし実は、この円安は9月から始まっているのです。

 チャートを見れば一目瞭然なのですが、円はドルに対して、9月以降ほぼ一本調子で下落しています。という訳で、この円安はいまに始まったことではないのです。そして、9月といえば尖閣問題が起こり中国向け輸出の低迷が始まったときですが、これについても現在に至ってなお中国向け輸出は低迷しているどころか、今後も当分の間はそうなのです。つまり、9月と12月、その状況は根本的には何も変わっていないのです。そうであるならば、この貿易赤字の発表を受けて、本来なら株価は下落する筈です。

 ちなみに、水曜の夕刊は、朝日新聞毎日新聞が、共に一面トップで、まずはこの貿易赤字のことを記事にし、そしてその次に日経平均株価1万円台回復の記事、という構成でした。それで、内容についても読んだうえで気付いたのですが、明らかに世論誘導がなされているだろうということです。ここ数日の過程を見れば、本来なら、「自民党安倍総裁、尖閣問題で交渉の余地なしと発言、懸念される日中関係の今後」→「貿易赤字過去最悪、とりわけ中国向け輸出の減少は深刻」→「おいおい、自民党で本当に大丈夫なのか? この先日本経済どうなるんだ?」となる筈のところが、「民主党政権日中関係悪化」→「貿易赤字過去最悪、とりわけ中国向け輸出の減少は深刻」→「日経平均株価1万円の大台回復、自民党政権で景気回復への期待膨らむ」、という論理にすり替えられているということです。

 繰り返しますが、現在相場を牛耳っているのは、アメリカのヘッジファンドです。だから日経平均が1万円の大台を回復したのも、東証の取引が開く前の外国時間においてだったのです。彼ら次第で相場はどうにもでも出来るのであり、そしてこのマフィア連中こそが、自民党政権を誕生させるためにこれまで相場の操作を行ってきたことは明らかである以上、この日経平均1万円台回復というのは、完全に日中関係から目を逸らすための目くらましとして機能しています。

 ですから、ここで値が上がった分は、その分だけ必ずどこかで下落します。早ければ、翌日の木曜にも下落します。というのも、この日は日銀の金融政策決定会合があり、それは昼前後に発表されます。もしここで日銀から、市場関係者の期待に沿わないものが発表された場合、それは売りの恰好の材料になります。つまり、本当は水曜に下落する筈だったものを、わざと1日ずらすことで、「日銀が消極的な金融政策しか発表しなかった」→「日銀の白川総裁は景気回復に向けての足枷である」ということにすり替えて売る、という可能性は十分考えられるわけです。とはいえ、白川総裁は、そのようなマフィアの思惑は百も承知でしょうし、一方でもちろん日銀総裁としてのプライドもありますから、これはどうなるかは解りません。ただ、いずれにしても、近いうち、必ず株価は1度下落します。

 しかし、水曜の取引における真の問題は、これらの事柄ではないのです。冒頭に述べました、異常を通り越して寒気がしたというのは、これまで語ってきたこととはまったく別のところにあります。

 それはまず、騰落レシオです。前回のポストで申し上げたように、この騰落レシオというのは、取引がいかに過熱感を帯びているかどうかの指標で、数字が高くなればなるほど、危険水域にあることを意味します。そして、火曜の騰落レシオは今年最高値を記録したわけですが、水曜は更にそこから12・51%上昇し、実に164・52%を記録しました。これは、遡れる限りでは、1997年以降、歴代1位です。

 つまり、何が異常かといいますと、過去最悪の貿易赤字が確定した日に、株式市場の取引の過熱感が過去最高を記録したということです。これは、ありえないです。過去最悪の貿易赤字が確定した日に、株価が大幅に下落して1万円を割り込みました、これなら解るのです。しかし実際に起こったのは、過去最悪の貿易赤字が確定した日に、過去最高の過熱感のなかで株価は上昇して一気に1万円を突破した、なのです。この異常さは、騰落レシオに注目しない限り、絶対に解りません。

 とはいえ、これでもまだ寒気がしたというレベルまでは行かないのです。寒気がしたのは、更に別の要素があります。それが、騰落レシオと同様、前回お話しした、1日の売買代金です。水曜の売買代金は、これまた今年最高を記録した火曜から更にはね上がり、なんと2兆888億円にのぼりました。問題は、この2兆円余りにのぼる金額がいつ以来か? ということです。答えは、2011年3月16日、つまり福島第一原発で建屋が吹っ飛んで株価が記録的な大暴落をしたその翌日、これ以来なのです。

 どういうことか? 3月15日、福島第一原発が爆発し、株価は大暴落しました。これは分刻み・秒刻みの細かいチャートで見ると解るのですが、あの日、建屋の爆発を受けて、午前中にヘッジファンドウォール街から、仕掛け的な売りが2度入りました。しかし、彼らの売りは、金額レベルでは大したことはなかったのですが、手口がいかにもマフィア特有の売りだったのです。そして、福島の映像をテレビその他で観て仰天した日本国内の個人投資家は、そのうえ更に外国勢が勢いよく売ったのを見て一気に恐怖にかられてしまい、そのまま大量に株を手放してしまったのです。そしてその翌日、マフィアどもは、日本人が手放して思い切り下落しお手頃価格になった日本株を大金で買い漁り、そして後日、福島第一の格納容器が破裂することはないらしいと解って日本の個人投資家が再び株を買い始めたところで、今度は彼らマフィアが売ることにより、こうしてマフィアどもは大儲けしたのです。

 そして2兆888億円という昨日の東証の売買代金は、その2011年3月16日以来の水準だったのです。だから僕は、寒気がしたのです。日経平均1万円台回復? それがどうした? 事態は、危機的どころか狂気的です。ヘッジファンドは、明らかに本気です。日本を食いものにするべく、完全に牙を剥いています。